小雨の降りしきるなか傘をさして先生がユンボで私のアパートを壊していくのを見つめていたい

ジョン・チョーに愛されすぎて殺されそうになっていますので気をつけてください

10/27(土) その2

 プリンストンくんがガサゴソッ、とポケットから取り出したのは……
「はい、これ、めんこさんの分です」
 ビンゴカードだった
「きっともらいそびれてると思って、代理でもらっておきました!いま、バットマンさんじきじきにルーレット回してて(先生かよ)、結果はスマホにすぐ入ってくるんで(^o^)」
 私は思いきりずっこけそうになりながらも、そんな優しさを見せてくれたプリンストンくんは、多分そんなに私に怒ったりはしてないだろうということが、死ぬほど安心してしまった。。。
 凝った仮装をした人たちでぎゅうぎゅうの、楽しくて騒がしくて、ワイワイのパーティーのさなかに、私のことなんかを思い出してくれたっていうことも、じんとくるほどうれしかった。
「ありがとう。何か当たるといいな」
「顔、もうすっかりきれいですね。ちょっとほっとしました」にこにこ
「( ̄□ ̄;)!! そう、プリンストンくんなんで事故のことわかったの?!先生と新人君以外誰にも教えてないのに!」
「そんなことはないでしょう」
「え?!いやあるけど」
「だってSNSには書いてたじゃないですか。Twitterとか」
 私は目をまんまるにした「プリンストン君わたしのTwitter見たの?!」
「ほら、やっぱり、ストーカーみたいでキモいですよね、こっそりそんなの検索して毎日見てるなんて。だからバラしたくなかったんですが」
「え?!え?!えーーー!!見てたの?!やだーーー!!恥ずかしい!!!」
「すいません……」
「恥ずかしい……ずるい……いやーーー!!!私もプリンストン君のアカウント特定して恥ずかしいツイート見てやる!!!」
「僕、Twitterやってないですよ。めんこさんのとこだけ、ブラウザにブックマークして直接見てるんで」
「えーーーーー!!!ずるいーー!!!!やだーーーー」(体をよじって悶える)
「あの……ホントすいません……🙏💦」
 私は文字どおり頭をかかえてウーッウーッと懊脳した
「……私、プリンストン君にだけはTwitterバレないようにって、隠してたんだよね……🙍」
「そんなに知られたくなかったんですか?」
「だって、死にたいとか書いてるじゃん。やっぱそういうのプリンストン君には見せたくないよ」
「どうして、見せたくないんですか?」
「え、いやアンタどうしてって……だって……失礼だと思う人だっているじゃない?ほら……生きたくても、生きられない人だっているんだからそんなの甘えだとか」
「えーそんなこと言う人いるんですか?!発想が斬新ですね~」プリンストン君はケラケラッとわらった
「いや、だからつまり私はさ、」
「分かってますよ。僕の彼女への気持ち、気づかってくれたんですよね。でも僕は、闘病に疲れて死にたいと思うことだって、その人が必死で生きようとしてる証、人間の生の一部だと思ってますから」
 にっこり微笑んだ年下の少年の顔が、急に、大人びて見えた。私はこの瞬間、彼が途方もなく尊く思えて、泣き出しそうになった。
「……怒ってるかと思ってたんだよね。事故のこと」
「怒ってるって僕が?どうして?」
「もちろん、あれは自殺未遂ではないけど、でも、やっぱりまるで命を粗末にしてるようなことだったし」
「怒るわけないじゃないですか。一番つらいのはめんこさんでしょう。怒っているとしたら、対象は、自分自身ですよ」
 プリンストン君はうつむき、夜のつめたい風が私たちをなでて、ぶるっとふるえるようだった。
「つらいときに、僕を頼ってもらえなかったから。……きっと、頼りないやつだと思われたんだろうなって、ほら……こないだ泣き出しちゃったから、きっとあれで、こいつガキだなって思われて。それで、力になれなかったのかなって」
「!! そ、そんなことない。そんなこと思ってないよ。君は、大人だよ。私よりも、よっぽど……。私は、君に死にたいとか言って嫌われるのが怖くて、弱いとこを見せれなかっただけだよ。」
「……そうだったんですね。」プリンストンくんは、ぎこちなく微笑んだ「わかりました。じゃあ、これからは、頼りがいのある男だと思ってもらえるようにがんばりますね」
 公園のまんなかで目をキラキラさせて見つめあうわたしたちは、ハロウィン・ウィークエンドの酔っぱらいの集団のかっこうの餌食になり、ピュイーピュイーとさかんに口笛を吹かれて、二人して目を伏せて苦笑いする結果となった。
「そういや、プリンストン君は、コスプレしなかったんだね」と照れ隠しに私は言った
「僕ですか?アハハ、実は、してるんですよ」
 彼は、メガネを外して胸ポケットにいれ、ワイシャツの真ん中のボタンを数個はずし、その中を、見せてくれた
 青いTシャツの上に、でっかく、〈S〉の文字がある
 彼は恥ずかしそうに歯を見せた。

 プリンストン君の正体は、スーパーマンであったのだ。

 昼間から重苦しい雨雲につつまれていた空がいよいよたえかねて水をこぼしだした。それほどはげしくはないけれど、公園で思い思いにくつろいでいたコスプレイヤーたちが、蜘蛛の子をちらすように避難をはじめた
「降ってきましたね、そうだ、あそこどうです?」
 彼はわたしの手をとって、足早に、道路むこうのイングリッシュパブの軒下に、彼自身と私の体をすべり入れた。
 肩をならべて突っ立ったまま、空を見つめて、私たちはまだ手と手をつなぎあったままだった。
 正直、中学生に戻ったみたいにドキドキしてる。それを彼にも悟られていると思う。
「雨……、……な」
「え、何?」彼は口のなかでもごもごと何か言って全然聞こえない
「あ、だから、雨、やまなくてもいいな~、って。そしたらずっとこうしてられるから、って意味で!😄」
 プリンストン君……♥♥♥

「あなたがた、亀野郎見ませんでしたか?!」
「ギャッ!!!」

 私たちの前にあらわれたのは、スーツの上に、返り血で真っ赤に染まった透明のレインコートを着たうえ、同じく血に染まったチェーンソーを持って、目を血走らせている新人くんだった
 私たちはパッ!と手をはなした

「み、見てないけど」
「そうですか。今夜あいつは僕が監視してますから。変な動きを見せたら殺すつもりです」

 アメリカンサイコのクリスチャンベールのコスプレをしてる人に言われるとしゃれになっていない……
 新人君は去り際に私たちにつめたい一瞥をくれて、
「そんなとこでいちゃついてたら、僕が黙ってても社長の耳に入りますよ、そんなことも分からない馬鹿ぞろいなんですか?」
 と言ってどこかに走っていってしまった
 確かにそのとおりで私たちは気まずく笑いあった。まぁ悪いことしてるわけじゃないからコソコソするほうがいやだけど。

「ぼく、車、まわしてきましょうか」とプリンストンくんが言った。「社長が乗ってる車の、100分の1の値段のもので許してもらえればですが」