小雨の降りしきるなか傘をさして先生がユンボで私のアパートを壊していくのを見つめていたい

ジョン・チョーに愛されすぎて殺されそうになっていますので気をつけてください

4/13

「さくせ……? 何のですか?」
「しーっ!」
 エース君は、人さし指を唇にあてる。
「どこかで二人で話しましょう。ゆっくりできるところで」
 私の腕をとって、外にとびだしかけたけど、
「いや、人目についてはダメだ」
 と、やっぱりエレベーターホールのほうへ引っ張られた。
 何がなんだか分からず、かたまってしまう。エレベーターのなかで、エース君の横顔を見る。先生を10歳若くしたような感じで、どことなく顔立ちが似ている。先生は同じ韓国人だからかわいがっているということだが、風貌やからだつきが似かよっていることも、かわいい理由ではないだろうか。
 うちの会社のミーティングルームはすべてガラス戸だし、休憩室にも人がいる。エース君は、資材室に使われている小さな部屋の電気をつけ、中をのぞき、
「ここにしましょう」と言った。
 わたしは資材室の棚のかげに追いやられた。腕をつかまれたことも、こんなところに連れ込まれたのも、この人のやってることだってセクハラすぎる。
「あの、作戦って、社長についてですか」
「そうです。僕の婚約者は、ふだんはそれなりの報酬を取っていますが、あなたに負担なら融通をきかせてくれると思います。寄付してくれる社員もいるでしょうし、いざとなったら僕がお金を集めます。僕も当然それなりに乗りますよ」
 私は何と答えていいか分からない。
 でも、大変はた迷惑だけど、ちょっと感動していた。ここまで言ってくれる人がいたのは、この会社に来てはじめてだからだ。ニヤニヤしてるだけの人がほとんどで。
 彼に興味がわいてきた。
「作戦はあとは何があるんですか」
「あとは、こっそり録音したり、録画したら、すぐ裁判には勝てるだろうから、準備をしておくとか……」
 3歳でも分かることだ。
「あそこで、ずっと私を待ってたんですか?」
「えっ……まあ……」
「帰りが遅くなって、彼女ほっといていいんですか?結婚の直前で」
「それほど直前でもないですよ……いまだに僕の親は反対していますから」
 反対を押しきって結婚しようとしてるのか。ロマンチックだな。なんだかとても、この熱血路線の男に似合ってる。
「ひどい親だとか思いました?」
 みごとに外してくる。先生がいつも心を読んでくるのと逆に。
レイシストじゃないですよ。ただロス暴動のとき、アフリカ系に店を焼かれたんです」
「そんなに愛してもらって、彼女が羨ましいです」
 ちょっとからかうだけでエース君の目が泳ぐ。
「い、いえそれはどうでしょうか……いやそんなことは今いいです。とにかくきょうみたいなことをされそうになったら、すぐ録音すればもう1発です。スマホなり何なりで」
「もしかして、きょう、あのとき何か録りました?」
「……そうしてればよかったんですけど、あまりに突然で、その、それは申し訳ありません」
 足音が近づいていて、私たちはびくっとした。ドアがあく音がする。
 気配に気づかれないように、私がそーっとしゃがんで身をちぢめると、エース君もそうした。
 こんなところを誰かに見つかったら、外で会ってるのを見られるのと同じくらいかそれよりもまずい。私は不安で、知らず知らずのうちに、彼によりそっている。肩が触れる。エース君は息もしていない。いいにおいがする。目が合う。
 用をすませた人物は、パチンと電気を消して出ていく。闇一色になる。
「……見つからなくて良かった」
 と、彼はほっとしたようにつぶやく。彼がどれほどのリスクを背負っているのかをふと実感する。
「何故、ここまでしてくれるんですか?」
「それは……別に理由は……。あなたのような人を見れば当然やることをやっているだけです」
「正義感が強いんですね」
「それもよく分からないです」
 全く見えないけど感触で彼が立ち上がったのがわかった。「気をつけて」と声をかけて私の腕に手をそえて立ち上がらせてくれた。
「向いてないので、やめようと思うんです」
「え、何を」
「ここの仕事。営業部は初めてで、畑違いなんです。まだ入社して日も浅いですけど毎日思っていて」
 ははっと苦笑い。
「あなたさえ救われてくれれば、安心してすぐにでも転職できるんですけどね……」
 10分前までは、うざい奴だと思っていたけど、私はけっこう、この言葉がうれしかった。
 うれしかったというか……端的に言えばちょっとときめいてしまった……😳
 ここでキスしてくれたらいいなと思ったけど、エース君は、「待っててください」と、私から離れていき、電気をつけてくれた。
「今後は何かあったら、こっちに連絡して下さい」
 彼は名刺をくれた。
「もう、社内では話せないかもしれないので」
「どうしてですか?」
「僕のこと、社長が勘づいてます。きょうのことで確信しました。……先に出てください、別々に帰った方がいいです」
 私は言われるがままに出ていった。
 帰りの電車のなかでやっと気づいた。
 先生は、全部、エース君に聞かせていたんだ。
 私のあえぎ声も。愛してる、幸せですのせりふも。彼に見せつけてたんだ。
 私はその夜寝るまでエース君のFacebookの過去投稿を見ていた。趣味の海釣りをしたり、婚約者とアイス食べて二人でセルフィ撮ったり。私はそこに、私がけして歩まなかったまぼろしの人生を感じる。その世界に入っていけないことをさみしく思う。

 4時くらいに寝て9時50分くらいに起きた。
 けさは冷えたみたいで夢の中でも寒い寒いと思ってた。
 年金をおろしてラーメン食べておなら。
 精神病院と薬局サクサク。カラオケリハ1時間新曲練習。どんぐりでパン2こ。

 先生は一日変わった様子を見せなかったけど、仕事終わりに、「土曜の夜にお前の家に行っていいか?」と言い出した。
「えっ!」
「変?それか嫌?」と彼は気弱げに眉をあげた。
 わたしがきのう会った、エース君にSMプレイを見せつけるなどというド派手な陰謀をめぐらせた恐ろしい独裁者とは、別の人みたいだった。
「勿論うれしいですけど、私が入ってって言ってもあんなに拒否してたのに」
「そろそろ苦手を克服しようと思って」
「……ゴハンをどうしよう」
宅配ピザとかでいいんじゃない?」
「えっそんな……嫌ですよ……先生が家に来るのに!!おもてなししたいじゃないですか」
 先生はそれを聞いてうれしそうにしていた。「じゃあ、せいぜいまる一日かけて、部屋をそうじして、僕にふさわしいようにきれいに飾りつけをしておいて」
 うっ、傲岸不遜な先生が戻ってきた😭嬉しい~
「そして、夕食を食べたらすぐに帰ることにする。じゃあ、また明日」
 

 
 メロウにライブみにいって、帰ってきたらなんだかつかれてしまった。